SMDO×MATSURICA interview
アートディレクター・佐野みなみとイラストレーター・MATSURICA
SMDOでのクライアントワークについて語る
SMDOで活躍するイラストレーター・MATSURICA氏と、SMDO代表の佐野みなみ。対談を通じて二人の人となりからクリエイティブへの想い、SMDOのアートディレクションの特徴や少し変わったシフト制など、SMDOの実際について語ります。
また、MATSURICA氏が手がけたSMDOの愛猫・nomiとmuuのアート作品についても、どんな経緯で制作することになったのか、制作時の思い出などを振り返ります。
執筆:Yuri Tozaki
イラストレーター
MATSURICA
デジタルアーティストであり、イラストレーター、そして画家である。
2001年に茨城県立取手松陽高等学校美術科(日本画専攻)卒業後、独学でデジタルアートを習得。
20歳でイラストレーターとして独立後、クライアントワークを中心に行う。2007年に関東、関西の2画廊にて作品の委託販売が始まり、画家としてオオカミとカラスの旅をテーマとしたの作品を描き続ける。現在は制作活動をしながら本の装丁画などのクライアントワークを併行して活動中。
Sano Minami Desogn Office 代表/アートディレクター
佐野 みなみ
1983年11月03日生まれ。東京理科大学理学部化学科卒業 東京理科大学大学院理学研究科 化学専攻中退
その後、第一種特待生としてバンタンデザイン研究所グラフィックデザイン学科入学。
C.T.T.P (現 信藤三雄事務所) インターン在籍後2009年4月より2010年4月まで 合同会社OPERA (現 株式会社ヴィーナス・スプリング ) に在籍。グラフィックデザイナーとして勤務。
2010年4月より独立しSano Minami Design Officeを設立。
2023年から3年連続でグラフィックデザイン年鑑『MdNデザイナーズファイル』にて最前線で活躍しているトップクリエイター&次世代を担う若手デザイナー255組の1人として掲載されている。
MATSURICA氏は仕事中に「小さな佐野みなみ」を宿している?
佐野:MATSURICAさんは、SMDOにイラストレーターという形で所属されていますが、SMDOを知っていただいたきっかけはどういう経緯でしたか?
MATSURICA:ホームページを偶然見つけて、それでイラストレーターを募集されていたので問い合わせをしました。元々は画家業をやっていたのですが、それを一度止めて、クライアントワークをするイラストレーターとしてやっていこうと思っていたタイミングでした。
今まで対企業とのやり取りってやってこなかったので、新しいことにチャレンジしたいと思っていました。
佐野:ご自身のアート活動を完全に辞められたわけではないですよね。
MATSURICA:絵を売るという活動自体が少し虚しくなってきていたタイミングでもありました。
なので一度作家活動は休止してみようと思って、イラストレーターにチャレンジしてみることにしたんです。
佐野:MATSURICAさんは、SMDOに参加していただいてからどれくらいになりますか?
MATSURICA:確か2023年9月からだったと思うので、1年半くらいですかね。佐野さんが、私の人生において初めてのタイプの方なので、圧倒されるというか。パワーとセンスと、いろんなことが初体験という感じでした。一緒にやっていて面白いですし、嬉しいです。今、私自身の満足感がすごいんですよ。
佐野:ありがとうございます(笑)。どんなところが他の人と違うと感じるんですか?
MATSURICA:佐野さんのアートワークって、理系出身なこともあって研究の要素が入っている感じがして。デザインを感覚でやるというよりも、研究して突き詰めていくようなイメージ。あとは、佐野さんと出会ってから私のアートワークに対する意気込みも全然違ってきて。
自分の中に“小さな佐野みなみ”がいるんです。
その小さな佐野みなみを宿すと、冴えてくるような気がする。
自分のアートワーク制作時にも「これ佐野さんだったら絶対ダメって言うだろうな」という違和感を感じる時があるんです。
普通はどこがおかしいのか、パッと見は嫌なんだけど何が嫌なのかすぐにはわからないんですよね。だからクリエイターはみんな困るんですが、佐野さんはそこを見抜くんです。
佐野:小さな佐野みなみを宿すって言葉めちゃくちゃキャッチーなので採用していいですか?(笑)
MATSURICA:デザインの構図や色だったり、その違和感がなぜパッとわかるんですか?
佐野:一つには、数をこなしてきたというのがありますね。
うちにはデザイナーが約20人いるんですが、それなりに入れ替わりもあり、いろんな人のデザインを見るようになります。そうすると「いいな」と思う人のデザインと、経験のない人のデザインとでバランスの取り方も決定的に違ったりするんですよね。あと、デザインの組み立て方も、MATSURICAさんがおっしゃられた通り私は割と理系的に考える癖があるんです。
マージンの取り方に一つとってみても、二つのコンテンツがあるんだったら、二つのコンテンツだってわかるようなマージンの取り方をしないといけない。そこができてないと全体のデザインが散漫になってくるんです。ただ、高校時代から鉛筆画をずっとやってたっていうところもあって、私にもアーティスト気質な部分もある。絵を描く人の気持ちにもなろうと思えばなれるし、理系的な考え方をする部分もある。そういうバランスがもしかしたら、良い相互作用を生んでいるのかもしれませんね。
– デザイン的に「違う」箇所が
すぐにわかるのが佐野のディレクション
佐野:今まで様々な案件で活躍いただいていますが、一番最初にお願いした案件は何でしたっけ?
MATSURICA:GODIVAのパッケージイラストのお仕事だったと思います。
桜のイラストや、他にもすごい量のイラストをご依頼いただいた思い出があります。イラスト案だけでも「すごい量だな」と思いましたけど、不満は全くなくて、ここまで案出しをするデザイン事務所って他にないんじゃないかな、と思ったのを覚えています。
そこで「SMDOでは徹底的にやるんだな」ということが体感できましたね。
佐野:ありがとうございます。
MATSURICA:あと、お菓子の形状案を出すところまででしか関わっていませんが、THE Petalの案件が進行している状況を横目で見ていて、結構サクッと「ここ違う」「ここ違う」って佐野さんが指示を入れているのを見ていて「判断が速いなぁ」と思ってましたね。
通常のデザイナーの方でも「何か違う」はわかるんだけど、じゃあどこが違う、までわかるのに時間がかかるものじゃないですか。
それをサクサク進めて行くのが、佐野さんが他の人と違うところだと思います。
佐野:私、すごいせっかちなんですよ。だから「迷ってる時間がもったいない」と思っちゃう。
一度にやってる案件数が多いときは二十数個くらいあるんです。それだと迷ってられない、という事情もありますね。進まなきゃ終わらないから。
あとは自分の中で確固たるイメージがあることがほとんどなので、それにたどり着くように制作しているので判断はしやすい。明確なビジョンがある、というのは判断が速いと言われる一つの要因かもしれませんね。
また、毎日何名ものスタッフに向けて、365日何年も指示動画を撮り続けていると、そのデザインやイラストについてどう進行すべきか脳内で瞬時に整理・言語化して、順序立てて話す癖がついているというのもあると思います。
実はMATSURICAさんは、私の求めているビジョンを察知する能力がSMDOのスタッフの中でもかなり高いんです。あとは表現の幅も広いですよね。
自分の得意なテイストだと作業が速いけど、苦手なジャンルだとなかなか進まない方もいますから。MATSURICAさんは3Dテイストでも絵画テイストでも何でもいけるから、難易度が高いイラストの制作依頼が来たときはまずMATSURICAさんにお願いするようになってきてしまった(笑)。
他のイラストレーターさんの場合には得意なテイストをお任せしていますし、それが本来想定しているスタイルでもあるのですが、MATURICAさんは3Dやステンドグラスのようなテクスチャまで対応ジャンルの幅がかなり広いのでクライアントワークにおいてはとてもありがたい話ですよね。
MATSURICA:Photoshopの技術というか、表現には自信があるんです。
こうしたいというビジョンを見せていただいた際に、どうアプローチをするとここにたどり着けるのか、というのは理解できている自信があります。
それでも毎回、SMDOから依頼を受けるときは自信がないです。今度こそ描けないかもしれない、と思っている。
佐野:今までお願いしたお仕事の中で大変だったなとか、逆にやりやすかったと思うものはありましたか?
MATSURICA:やりやすいのは、リアルテイストなイラストですね。何も考えずにリアルに描けばいいだけなので、手を動かせば終わる。逆に大変だったのは、Photoshopでできない布の質感を表現してくれという依頼とか。あと、ちぎり絵をオーダーされたときも結構大変でしたねぇ。どうやってちぎりを絵に表現しよう、とすごく悩みましたから。
描くっていうよりは素材感で表現して、というオーダーがたまにありますよね。ステンドグラス風とか。ああいうのは結構ひねり出して、どこから手をつけようかな、と考えながら作業しています。
佐野:ステンドグラスのイラストは、上がってきたときに本当に素晴らしいなと思いました。
「MATSURICAさん、本当に何でも行けちゃうんだ」と。そこからどんどんオーダーが厳しくなっていった記憶があるんですけど(笑)。GODIVAの桜パッケージのイラストもお気に入りとおっしゃってましたね。
MATSURICA:初めはあまりにも今までのプロダクトの雰囲気とかけ離れていたので「これでいいんだろうか?」「ちゃんと形になるのかな?」と思いながら制作していて。自分の中で先の見えない恐怖感がある中でイラストを渡したら、すごい綺麗になって出てきたので「ああ良かったんだ」と。
佐野:これ、MATSURICAさんのパワーももちろんですが、これを構成してくれるデザイナーさんのパワーもありますからね。イラストとデザインのコラボレーションですごくいい形になったと思います。例えば、SMDOのスタッフの福岡さんという方がいるんですが、彼女のセンスは私も大好きなんです。
MATSURICA:nomiちゃんとmuuちゃんの名刺を作られた方ですね。
佐野:そうです。イラストをMATSURICAさんが描いて、それを福岡さんが名刺の形に仕上げてくれたんですよね。インスタにアップしたら大好評で、商品化してくれって連絡が来たり。名刺を商品化ってどうやって?って(笑)。nomiとmuuの特徴も捉えてくれてて可愛いですよね!
これもイラストとデザインの良いコラボレーションの形でした。
ポップアート的かつレトロなデザインで、SMDOならではの遊び心と独自性に富んだデザインになりましたね。
– SMDOのアイドル猫・nomiとmuuのイラスト制作の依頼を受けて
佐野:MATSURICAさんにnomiとmuuの絵を描いてもらいたいなという気持ちが、名刺を制作した頃から湧いてきて。閑散期の頃合いを見てMATSURICAさんにイラストをお願いしたんです。最初に絵をお願いしたいってご連絡した時はどう思われました?
MATSURICA:すごくドキドキして、私が描いていいのだろうか、という気持ちもありました。佐野さんはきっといろんなイラストレーターさんを知っているだろうし、私なんかでいいのかしら、と。でも、私自身もやりたいと思ったんですよね。
佐野:見ててジーンと泣けてくる、すごくドリーミーな感じに仕上げていただいて。イラストのポイントやこだわりはありますか?
MATSURICA:ちょっと霞がかった感じに仕上げていて、遊び疲れた後の「さあ、そろそろお家に帰ろうかな」という雰囲気をイメージしました。黄昏ているような。
佐野:遊び回って、疲れてポテッと砂浜で日向ぼっこしてるみたいな、そういうイメージでお願いしたので、よくぞ再現してくださいました。
仮タイトル『シティーハンター』についてはどうですか?
MATSURICA:最初のイラストと対比して、街の雰囲気を出したいな、と思って。
ドコモタワーっぽいタワーを描いて、新宿の街をイメージしたり。SMDOのオフィスの角部屋をイメージしているところもあるんですよ。
ビルにお母さんが住んでいて、そこから二匹は海に遊びに行くストーリーなんです。
佐野:大きく印刷して部屋に飾ってます! わがままを聞いてくださり、ありがとうございます。
– SMDOのシフト制はデザイン事務所では画期的?
佐野:SMDOに参加してみて、ワークスタイルについては何か思うところはありますか?
MATSURICA:他のお仕事では納期を提示されて発注、が一般的だと思いますが、SMDOは時間区切りのシフト制なので、そういう方式をとるのは珍しいと思いました。おかげで、どんなに修正があってもモヤッとすることが少なくて助かってます。デザイン事務所のシフト制はなかなか画期的なシステムだと思いますね。
佐野:モヤッとしないのは、時間の区切りがあるからですか?
MATSURICA:ある程度時間をかけて納品したものに後からリテイクが入ると「あれだけ頑張ったのに」という気持ちが生まれてしまう。時間がなくなってくると焦っちゃうし。SMDOのお仕事の場合は、じゃあここまで描いたけど、イチからリテイクになった場合はそこまでの分は稼働としてカウントしますと。そういうやり方をしてもらえると、クリエイターにとってはやはり助かりますね。
佐野:うちのスタイルでやっていける人は、確かな技術力がある人じゃないと無理なんですよね。私がオーダーしたことに対して時間がかかっちゃう人だとうちでやっていけないんですよ。
MATSURICAさんのように技術や表現の幅があって、ペースも速い人だと、私もお仕事をたくさんお願いできるし、修正の分をお支払いしても損した気持ちにはならないです。
MATSURICA:SMDOでは「ここまで時間かけちゃったのに、どうしよう」というのが、全くないです。
佐野:SMDOは時給的にすごく高いわけじゃないし、そんな中でやっていただいている分、かけた時間に対して支払う、というスタンスは絶対守らなきゃいけないと思っています。ディレクターってそういう部分を決める人でもあると思うんで。だから、クリエイターさんの立場でそこを良いと言ってくださるのは、私もこういう働き方にして良かったと思いますね。
MATSURICA:SMDOは今後、どんな事務所になっていくんですか?
佐野:デザイン事務所を立ち上げて15年目になりますが、実は今、得意な分野がだんだんわかってきた時期なんですよ。チープな言い方かもしれないですけど、我々が得意な分野は大きな企業やブランドさんの案件。誰もが知っているような有名企業さんの案件が相性が良いんですよね。
MATSURICA:そうですね。わかります。
佐野:高級感とか、あたたかみのあるプレミアム感というのは、私は常に意識してるんですけど。そういうものを求めているクライアントさんは大きな企業さんが多かったり。
私の仕事のやり方も、例えばロジックを元に様々な検証をして多めに案を出すケースなどは、大きい企業さんにとって安心感につながる部分もあると思うんですよね経営層の合意形成をとりやすいなど。
たくさんの検証の上で多くの案を出すには見積もりもそれなりにはなってしまうんですが、それでもリピートしてくださるクライアントが多いですし、結果大きい企業さんとの相性が良い。
今後は、私としてもそうした案件を増やしていきたいと思っています。
MATSURICAさんは、今後どんなお仕事をしたいなどの希望はありますか?
MATSURICA:そういう大きなクライアントさんや代理店さんと、私たちがチームになって佐野さんの得意な分野でパッケージを作るというのは、理想的なお仕事の形ですよね。
私もそうしたお仕事をたくさんしていけるといいなと思います。
佐野:ありがとうございます!
大きな案件にはそれだけ時間がかかりますし、作るだけじゃなくて売らないといけないので、PRやマーケティングなど、そういうところも大切ですよね。
デザインの力だけでは難しいところもありますが、今後もクライアントと協力し合ってブランディングをやって行きたいですね。