SMDO×MATSURICA interview
SMDO×MATSURICA interview
アートディレクター・佐野みなみとイラストレーター・MATSURICA
SMDOでのクライアントワークについて語る
本インタビューでは、SMDO代表の佐野みなみと、イラストレーター・MATSURICA氏の対話を通じて、SMDOにおけるクライアントワークの実際と、二人の創作の裏側に迫ります。画家としての活動を経てSMDOに加わったMATSURICA氏が、佐野氏との出会いによってどのような変化を遂げたのか。
表現者としての転機や制作の中での葛藤、歓び、そして「小さな佐野みなみ」という独自の感覚まで。今回は、SMDOでともに暮らす猫たちの姿をMATSURICA氏が描き下ろし、その存在がさりげなくインタビューの空気にも影を落とします。信頼と刺激に満ちたやりとりの中から、クライアントワークの奥行きを紐解いていきます。
イラストレーター
MATSURICA
デジタルアーティストであり、イラストレーター、そして画家。
デジタルアートと、アクリルペイントや水彩を使い、狼とカラスをモチーフにした作品を描き続けています。
強さと哀愁をあわせもつ彼らの旅路を包むのは、やわらかな光や透明感にあふれた景色。
時に強く、哀しく、また優しくもある繊細な世界。同じテーマを追い、同じキャラクターを描きながらも変化し続ける作品たち。
デジタルペイントで表現される透明感、アクリル画で描かれる重厚感、水彩画のやわらかさ、画材ごとに表情を変える作品となります。
Sano Minami Desogn Office 代表/アートディレクター
佐野 みなみ
1983年11月03日生まれ。東京理科大学理学部化学科卒業 東京理科大学大学院理学研究科 化学専攻中退
その後、第一種特待生としてバンタンデザイン研究所グラフィックデザイン学科入学。
C.T.T.P (現 信藤三雄事務所) インターン在籍後2009年4月より2010年4月まで 合同会社OPERA (現 株式会社ヴィーナス・スプリング ) に在籍。グラフィックデザイナーとして勤務。
2010年4月より独立しSano Minami Design Officeを設立。
2023年から3年連続でグラフィックデザイン年鑑『MdNデザイナーズファイル』にて最前線で活躍しているトップクリエイター&次世代を担う若手デザイナー255組の1人として掲載されている。
– MATSURICA氏は仕事中に「小さな佐野みなみ」を宿している?
佐野:
MATSURICAさんは、SMDOにイラストレーターという形で所属されていますが、SMDOを知っていただいたきっかけはどういう経緯でしたか?
MATSURICA:
ホームページを偶然見つけて、それでイラストレーターを募集されていたので問い合わせをしました。
元々は画家業をやっていたのですが、それを一度止めて、クライアントワークをするイラストレーターとしてやっていこうと思っていたタイミングでした。
今まで対企業とのやり取りってやってこなかったので、新しいことにチャレンジしたいと思っていました。
佐野:
ご自身のアート活動を完全に辞められたわけではないですよね。
MATSURICA:
絵を売るという活動自体が少し虚しくなってきていたタイミングでもありました。
なので一度作家活動は休止してみようと思って、イラストレーターにチャレンジしてみることにしたんです。
佐野:
MATSURICAさんは、SMDOに参加していただいてからどれくらいになりますか?
MATSURICA:
確か2023年9月からだったと思うので、1年半くらいですかね。
佐野さんが、私の人生において初めてのタイプの方なので、圧倒されるというか。
パワーとセンスと、いろんなことが初体験という感じでした。
一緒にやっていて面白いですし、嬉しいです。今、私自身の満足感がすごいんですよ。
– デザイン的に「違う」箇所が
すぐにわかるのが佐野のディレクション
佐野:
今まで様々な案件で活躍いただいていますが、一番最初にお願いした案件は何でしたか?
MATSURICA:
GODIVAのパッケージイラストのお仕事だったと思います。
桜のイラストや、他にもすごい量のイラストをご依頼いただいた思い出があります。
イラスト案だけでも「すごい量だな」と思いましたけど、不満は全くなくて、ここまで案出しをするデザイン事務所って他にないんじゃないかな、と思ったのを覚えています。
そこで「SMDOでは徹底的にやるんだな」ということが体感できましたね。
佐野:
ありがとうございます。
MATSURICA:
あと、私はチームに入っていませんがTHE PETALの案件が進行している状況を横目で見ていて、結構サクッと「ここ違う」「ここ違う」って佐野さんが指示を入れているのを見ていて「判断が速いなぁ」と思ってましたね。
通常のデザイナーの方でも「何か違う」はわかるんだけど、じゃあどこが違う、までわかるのに時間がかかるものじゃないですか。
それをサクサク進めて行くのが、佐野さんが他の人と違うところだと思います。
下図:MATSURICAが手がけたGODIVAの桜のイラストの一部
佐野:
私、すごいせっかちなんですよ。だから「迷ってる時間がもったいない」と思っちゃう。
一度にやってる案件数が多いときは二十数個くらいあるんです。それだと迷ってられない、という事情もありますね。進まなきゃ終わらないから。
あとは自分の中で確固たるイメージがあることがほとんどなので、それにたどり着くように制作しているので判断はしやすい。明確なビジョンがある、というのは判断が速いと言われる一つの要因かもしれませんね。
また、毎日何名ものスタッフに向けて、365日何年も指示動画を撮り続けていると、そのデザインやイラストについてどう進行すべきか脳内で瞬時に整理・言語化して、順序立てて話す癖がついているというのもあると思います。
実はMATSURICAさんは、私の求めているビジョンを察知する能力がSMDOのイラストレーターの中でもかなり高いんです。
あとは表現の幅も広いですよね。
自分の得意なテイストだと速いけど、苦手なジャンルだとなかなか進まない方もいますから。MATSURICAさんは3Dテイストでも絵画テイストでも何でもいけるから、私もどうしようか迷うときはMATSURICAさんにお願いするようになってきてしまった(笑)。
クライアントワークにおいてはとてもありがたい話ですよね。
MATSURICA:
Photoshopの技術というか、表現には自信があるんです。
こうしたいというビジョンを見せていただいた際に、どうアプローチをするとここにたどり着けるのか、というのは理解できている自信があります。
それでも毎回、SMDOから依頼を受けるときは自信がないです。今度こそ描けないかもしれない、と思っている。
佐野:
よくそう言われますね。
MATSURICA:
デザインの構図や色だったり、その違和感がなぜパッとわかるんですか?
佐野:
一つには、数をこなしてきたというのがありますね。
うちにはデザイナーが約20人いるんですが、それなりに入れ替わりもあり、いろんな人のデザインを見るようになります。
そうすると「いいな」と思う人のデザインと、経験のない人のデザインとでバランスの取り方も決定的に違ったりするんですよね。
あと、デザインの組み立て方も、MATSURICAさんがおっしゃられた通り私は割と理系的に考える癖があるんです。
マージンの取り方に一つとってみても、二つのコンテンツがあるんだったら、二つのコンテンツだってわかるようなマージンの取り方をしないといけない。そこができてないと全体のデザインが散漫になってくるんです。
ただ、高校時代から鉛筆画をずっとやってたっていうところもあって、私にもクリエイター気質な部分もある。
絵を描く人の気持ちにもなろうと思えばなれるし、理系的な考え方をする部分もある。
そういうバランスがもしかしたら、良い相互作用を生んでいるのかもしれませんね。
下図:MATSURICAが今回佐野からの依頼を受けて制作した作品
– SMDOのアイドル猫・nomiとmuuのイラスト制作の依頼を受けて
佐野:
MATSURICAさんにnomiとmuuの絵を描いてもらいたいなという気持ちが、名刺を制作した頃から湧いてきて。閑散期の頃合いを見てMATSURICAさんにイラストをお願いしたんです。最初に絵をお願いしたいってご連絡した時はどう思われました?
MATSURICA:
すごくドキドキして、私が描いていいのだろうか、という気持ちもありました。佐野さんはきっといろんなイラストレーターさんを知っているだろうし、私なんかでいいのかしら、と。でも、私自身もやりたいと思ったんですよね。
佐野:
見ててジーンと泣けてくる、すごくドリーミーな感じに仕上げていただいて。イラストのポイントやこだわりはありますか?
MATSURICA:
ちょっと霞がかった感じに仕上げていて、遊び疲れた後の「さあ、そろそろお家に帰ろうかな」という雰囲気をイメージしました。黄昏ているような。
佐野:
遊び回って、疲れてポテッと砂浜で日向ぼっこしてるみたいな、そういうイメージでお願いしたので、よくぞ再現してくださいました。『シティーハンター』についてはどうですか?
MATSURICA:
最初のイラストと対比して、街の雰囲気を出したいな、と思って。
ドコモタワーっぽいタワーを描いて、新宿の街をイメージしたり。SMDOのオフィスの角部屋をイメージしているところもあるんですよ。
ビルにお母さんが住んでいて、そこから二匹は海に遊びに行くストーリーなんです。
佐野:
大きく印刷して部屋に飾ってます! わがままを聞いてくださり、ありがとうございます。
– SMDOのシフト制はデザイン事務所では画期的?
佐野:
SMDOに参加してみて、ワークスタイルについては何か思うところはありますか?
MATSURICA:
他のお仕事では納期を提示されて発注、が一般的だと思いますが、SMDOは時間区切りのシフト制なので、そういう方式をとるのは珍しいと思いました。おかげで、どんなに修正があってもモヤッとすることが少なくて助かってます。デザイン事務所のシフト制はなかなか画期的なシステムだと思いますね。
佐野:
モヤッとしないのは、時間の区切りがあるからですか?
MATSURICA:
ある程度時間をかけて納品したものに後からリテイクが入ると「あれだけ頑張ったのに」という気持ちが生まれてしまう。時間がなくなってくると焦っちゃうし。
SMDOのお仕事の場合は、じゃあここまで描いたけど、イチからリテイクになった場合はそこまでの分は稼働としてカウントしますと。
そういうやり方をしてもらえると、クリエイターにとってはやはり助かりますね。
佐野:
うちのスタイルでやっていける人は、確かな技術力がある人じゃないと無理なんですよね。
私がオーダーしたことに対して時間がかかっちゃう人だとうちでやっていけないんですよ。
MATSURICAさんのように技術や表現の幅があって、ペースも速い人だと、私もお仕事をたくさんお願いできるし、修正の分をお支払いしても損した気持ちにはならないです。
MATSURICA:
SMDOでは「ここまで時間かけちゃったのに、どうしよう」というのが、全くないです。
佐野:
うちは時給的にすごく高いわけじゃないし、そんな中でやっていただいている分、かけた時間に対して支払う、というスタンスは絶対守らなきゃいけないと思っています。ディレクターってそういう部分を決める人でもあると思うんで。
だから、クリエイターさんの立場でそこを良いと言ってくださるのは、私もこういう働き方にして良かったと思いますね。
佐野:
うちは時給的にすごく高いわけじゃないし、そんな中でやっていただいている分、かけた時間に対して支払う、というスタンスは絶対守らなきゃいけないと思っています。ディレクターってそういう部分を決める人でもあると思うんで。
だから、クリエイターさんの立場でそこを良いと言ってくださるのは、私もこういう働き方にして良かったと思いますね。
MATSURICA:
SMDOは今後、どんな事務所になっていくんですか?
佐野:
デザイン事務所を立ち上げて15年目になりますが、実は今、得意な分野がだんだんわかってきた時期なんですよ。
チープな言い方かもしれないですけど、我々が得意な分野は大きな企業やブランドさんの案件。誰もが知っているような有名企業さんの案件が相性が良いんですよね。
MATSURICA:
そうですね。わかります。
佐野:
高級感とか、親しみのあるプレミアム感というのは、私は常に意識してるんですけど。そういうものを求めている企業さんは大きな企業さんが多かったり。
私の仕事のやり方も、例えばロジックを元に様々な検証をして多めに案を出すケースなどは、大きい企業さんにとって安心感につながる部分もあると思うんですよね経営層の合意形成をとりやすいなど。
たくさんの検証の上で多くの案を出すには見積もりもそれなりにはなってしまうんですが、それでもリピートしてくださるクライアントが多いですし、結果大きい企業さんとの相性が良い。
今後は、私としてもそうした案件を増やしていきたいと思っています。
MATSURICAさんは、今後どんなお仕事をしたいなどの希望はありますか?
MATSURICA:
そういう大きなクライアントさんや代理店さんと、私たちがチームになって佐野さんの得意な分野でパッケージを作るというのは、理想的なお仕事の形ですよね。
私もそうしたお仕事をたくさんしていけるといいなと思います。
佐野:
ありがとうございます!
大きな案件にはそれだけ時間がかかりますし、作るだけじゃなくて売らないといけないので、PRやマーケティングなど、そういうところも大切ですよね。
デザインの力だけでは難しいところもありますが、今後もクライアントと協力し合ってブランディングをやって行きたいですね。